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パズルゲーム感想アーカイブ

巡らぬ四季 “Mirages of Winter”

他人の不始末の尻拭いをさせられるどころか、お茶汲みに釣り接待まで要求されるとは……。

五行思想と四神相応をモチーフにした世界の一角、玄武祀る水の大地・冬島を舞台に繰り広げられるポイント&クリックの謎解きアドベンチャー。
水墨画で描かれた風流な世界が印象的な作品である。

謎解きの内容はしらみ潰しの探索が必要なかくれんぼや単純な情報の点つなぎなどで、推理が必要な場面はほとんどなく、ゆえにこのゲームはパズルではない。
ただし、この世界における情報の繋ぎ方、理屈は風変わりである。
落ち葉に火を付けたり、水で火を消すといった常識的なものも当然あるが、暗闇を照らすのに鉱石を集めたり、荒天の海を鎮めるのに米を撒いたりなど、儀礼的な対応関係が目立つ。
難易度は決して高くなく、ノーヒントでも難なく全実績解除できるほどだが、常識をこのゲームにローカライズできないと一つ一つの手続きが細かい謎解きで苦労する。特に茶会の謎解きはそれ単体で強烈な印象が残った。
モチーフの組み込み方に並々ならぬこだわりを持っていることが窺えるが、意外なことにこの作品はフランス産のゲームである。マルチバイト言語のフォントまで画一的に整ってるのは久しぶりに見た気がする。おそらくNoto serifなので揃えたというよりは揃ったというのが正しいのかもしれないが、乱暴なゴシック体に見慣れてしまうとこれだけでも丁寧に感じてしまうものだ。

独自の風習に基づいた形式的な謎解きはユニークだったものの、パズルでないどころか思考すら不要なその内容と、絵のタッチに合わせたからであろうテンポの悪さによってこのゲームに対する印象は悪い。
そして、私が一番に感じた不満は一連のまとまりを持った動的な面白さがほとんどなかったことであり、それはゲームのあちこちに表れていた。

水墨画で描かれた世界は美しいが、パーツごとに単純に拡大縮小・変形・移動をするだけで、縮尺に応じて解像度を揃えたり筆の太さを変えたりする工夫がないため、動かしてしまえば途端に安っぽい書き割りに見えてしまう。
ストーリーも説明不足で、自分が何者なのか、どこに何のためにいるのかもわからない。冬島に初めて降り立って、いきなり梅の花を持ってきて欲しいと言われても前後関係も何もないので何が何だかさっぱりである。情報の点を繋ぎ合わせれば窺い知れるが、それでもやはり不連続である。
謎解きもやることがことごとく場当たり的で、過去の謎解きが生かされたりするような線の繋がりが薄いのでなおのことつまらなく感じる。茶会が印象に残ったのは、一連の作法が作中の論理に則った手続きを要求するという、線の繋がりを持つ謎解きだったからというのがあるだろう。

五行思想と四神相応をモチーフにしているだけあって、この世界には四つの方角とその中心に相当する五つの島があり冬島はそのうちの一つでしかないのだが、この作品で冬島以外の島が舞台になることはない。
それだけならばタイトルからして予想していたものの、予想外だったのは打ち切りとも言えるような終わり方だったことだ。
釣り人には春島で木こりに会えと頼まれるのだが結局その木こりは登場せず、春島に着いたら誰に会うでもなく散策するでもなく、竹林が囲む蓮の池に梅の花を沈めて終わりである。
中途半端な終わり方になるくらいなら、冬島だけの物語だとしても綺麗に完結させてほしかった。

I miss the Summer Island…There, a phoenix lives among the butterflies! I can't wait to see her again!

夏島……行けるといいね。