学芸会の馴れ合い “VTuberのQ”
責任者不在、無秩序のQ。
物理演算パズル “Q” とバーチャルYouTuber、通称VTuberがコラボしたQの派生作品。
Q REMASTEREDがVTuberによる配信をきっかけに再ブレイクを果たした縁か、制作者はVTuberをはじめとした配信者たちと蜜月の関係を築こうとしていたが、それが作品として結実した形だろう。
ほとんどがVTuber考案のオリジナルな問題で、BGMや背景といった飾りにもVTuberが参加している。
VTuberはレベルデザイナーではなく、またQ REMASTEREDで追加された問題の出題傾向からして良問は期待できないだろうという予想があり元々気が乗らなかったのだが、ストアを見てより幻滅。
そこには、あなたはコップからボールを出せますか?
のキャッチコピーのような、見た目に反して一筋縄ではいかなさそうな意外性もなければ、対抗心を燃やさせるような煽動力もない。見ただけでうんざりする地道そうな問題や、そもそも何がクリア条件なのかがわからないような問題が並んでばかりでどうして意欲的になれようものか。
おかげでマヌケのやる気はプレイ前からほぼ尽きてしまっていたが、いつも通り実情など結局はやらねばわからないので、パズルの奴隷としての義務感によりプレイすることにした。

トレーラーにも登場し、ストアにもスクリーンショットとして掲載されている問題の一つ。
内輪ネタは察せない。
やってみると想像以上に酷い序盤に頭を抱え、心証は最悪の一言だった。
くだんの察すべき問題はチュートリアル終了後2番目にあたる6問目の問題で、STAGE 01後半の新問解禁直後の8問目はパズルですらないただのスロット、9問目はアクションチックな避けゲーとパズルですらない。
Qシリーズの魅力を食い潰す惨状に強い怒りを覚え、これはもうワースト級のクソゲーなのではないかと、買ったことを強く後悔したほどだった。

タイミングを見計らうだけのゲーム。パズルですらない悪問にパズルの奴隷も憤慨。
リスナーもクレジットされているあたりに複雑な気持ちになる。見ているだけなら無自覚に邪悪になれる。
とはいえ、序盤が特段酷いというだけで、全体的にそこまで酷いわけではなかった。かといって、一定以上の評価が可能な問題はごくわずかであり、ほとんどの問題は並以下である。
今作では全体に顕著な傾向として、ヒーローのような軽くてふわふわした物性が用いられている。外面は様々だが挙動は皆同じで、ビーカー並みの重さを持つ物体をお目にかかることは滅多にない。
そしてその特徴に甘えてか、下に落ちているものを上側まで持ち上げるだけのような、型の決まった地道な作業が求められる問題が多い。軽いので跳ね上げるのは簡単だが、代わりに物体を小さくしたり、ゴールを狭めたりすることで難しくしようとしている。
総じてわかりきったことをやるだけの泥臭い問題ばかりであり、私がシリーズで愛しているような、ひらめきで泥臭さを打開できる問題、すなわち気づきを与える問題は皆無である。やっていて面白さはまるで感じられなかった。

アホ毛は簡単に跳ね上げられるが、ゴールの頭頂部は耳でガードされている。
この問題もそうであるように、届いてしまえば向きは不問なことが多い。それでも軽いものを所定の場所まで運ぶというフォーマットばかりでうんざりする。
やはり直近の出題傾向の通りだったわけだが、そもそもなぜこのような設計思想になってしまっているのか、意識的なのか無意識的なのかはわからないが、それはおそらく配信を前提とした設計思想に凝り固まっているからではないだろうか。
どんなに理不尽で泥臭いことを要求されようとも、雑談相手がいるならば変化に乏しくともつらさは緩和されるし、泥臭くなるしかないからこそ成功すれば盛り上がる。それにやるべきことが固定されていれば、視聴者同士のアイデアの出し合いにパンクすることもなくなるだろう。
つまるところ、制作者は配信者と同じ視点で視聴者と楽しむための話題作りの感覚でパズルを選別していて、パズルのレベルデザインの観点からのフィードバックをしていないのである。
配信者と同じ視点に立ちたがるのは大いに結構だが、その結果が悪問の山であるならば、一人で静かにプレイするのが当たり前のマヌケからすれば到底受け入れられるものではない。
また、今作では今までのシリーズにはなかったいくつかの新たな試みが行われているが、そのどれもが擁護のできないものだった。
一つ目は、前述のスロットのようなパズルではない問題、私が呼んでいるところの自称パズルな問題だが、これをパズルの奴隷たるマヌケが嫌悪することは言うに及ばない。
二つ目は、領域外について明示的な問題である。シリーズを解き慣れた身からすればその仕様は暗黙の了解ではあったが、あからさまにその利用を強いる問題は初めてである。
それ自体は悪くないのだが、今作で提示したことについてはまるで理解できない。高難易度を謳ったわけでもないVTuberファン向けの作品で、手段として用いるものを知るべき前提にまで繰り下げる必要性はあったのだろうか?
立ちたがった視点はわかっても、おかげでその差す先が誰なのかは謎である。

画面外の上空を利用して壁を越える問題。
壁を越えられてもゴールが保証されないのが面倒な点。
そして三つ目は、Q2 étudeライクな操作方法でプレイする謎解き問題である。
操作方法からしてQとは別物なのだが、解答の過程ですらも物理演算を考慮する必要が全くなく、Qシリーズで出題する意味はまるで存在しない。

今作ではヒーローの出番が薄いため、ヒントとしてふさわしいかは疑問が残る。
STAGE 03-10に潜むもう二つの欠陥
この問題は謎解きとして重大な欠陥を二つ抱えている。一つはパズルにおいて出題者が持たねばならない配慮の欠如、そしてもう一つはQシリーズの知識不足によるものである。
ネタバレ項目: マヌケからのQ・答え
まず、パズルにおいて出題者が持たねばならない配慮の欠如、それはこの問題が謎解きの手がかりとして色を使用していることである。
色とは必ずしもユニバーサルな存在ではなく、人によっては別の色が似た色に見えることがある。




この謎解きのやっかいな所は、よりにもよって色の名前を手がかりとしているところである。
色覚へのアクセシビリティが向上し、色を主題としたゲームではディスプレイの色を調整するオプションが付くことが多くなった昨今において、そういったオプションがこのゲームにはないというのも大概だが、この問題を解くにあたっては色の名前との一致が必要なため、仮にオプションがあったとしても無力だった。
万人に開かれた謎解きを制作するならば想定すべきことを失念したことは、出題者ならびにそれを通した選定者の落ち度である。
仮にこの問題を改善するとすれば、ボールにマークを付けるといった方法があるが、既に固定されたヒントと矛盾しないように差し替えるのは難しいだろう。
そして、Qシリーズの知識不足、それは「ヒーロー」が他言語でも “hero” とは限らない、ということである。
特に英語では、彼は一貫して “Alex” である。

「ヒーローのQ」の英題。
Alexはヒーローでありheroである。
今作でも多言語対応はしているものの、やはりと言うべきか、ヒントの多言語対応は行われていない (そもそも今の形式のままだとxを表現できない) ので、問題を解くにはAlexをheroに結びつける過程が必要になる。
日本語で解くだけでは知りようのなかった知識である以上、出題者の落ち度とするのは酷ではあるが、選定者は当然知っていなくてはならないことなので、そのことに思い至らずに通してしまった事実は重い。
ただでさえ場違いな問題を出しておきながら、このような手落ちの数々という惨状に呆れ果てる。
仮にこれが謎解き問題のétudeなのだとすれば、謎解きに手を出せるほどの格など到底足りていないのだからやめておけとしか言えない。
気づきのない問題の数々も、新しい試みとして甘えた筋違いな問題の数々も、誰に向けて売り出しているのかわからないような統一感のなさも、デフォルトの立ち絵をコピペしただけのような手抜きの背景も、前述の透けて見える設計思想と併せて考えれば、VTuberと共に一つの作品を作り上げることばかりに夢中になって客観性を失った結果ではないかと思う。
熱心なパズル作りをしたわけでもなければQシリーズやVTuberファンに向けて真摯にゲーム作りをした結果でもなく、彼らは単にVTuberと同じ立場で盛り上がりたかっただけにすぎないのだということだ。
今作を出すにあたって、Q REMASTEREDのシステムをまるごと流用しておきながらDLCとして出すわけではなく作品ごと分けた判断に、マヌケはできることを分断していく悪癖がまた現れたのではないかと裏の思惑を疑ったり、権利問題や世間一般におけるVTuberへの風評への配慮から分けたのだろうか、などとも考えたが、その出来の悪さから、単に思い出作りがしたかっただけという説がマヌケの中で濃厚となった。
憤怒に満ちた最悪の第一印象からすれば最終的な印象は多少回復したものの、結局クソゲーという評価を覆すほどではなかった。
VTuberはレベルデザイナーではないのだから、それをコントロールするのが責任者たる制作者の役目なのだが、VTuberとの馴れ合いに熱を上げる今の彼らに責務を果たす能力などとても期待できない。

例によってクリア図を用意したが、制作者の意識が今のまま変わらずにいるならば、追加問題なんてやりたくもない。
かつて本家のクリア図を作っていた時は、それが広がることをいつだって願っていたのに、クリア図の広がりを嫌になる日が来るとは思わなかった。