月は綺麗ですね “LUNA The Shadow Dust”
月の裏側は醜いものだった。
少年Üriと謎の生き物の相棒Layhが力を合わせて不思議な塔を上っていく、三人称ポイント&クリックのアドベンチャー。物語の舞台からアニメーションに至るまで全て手描きで描かれているのが大きな特徴である。
塔の部屋のそれぞれが一つの大枠を成していて、その内容はオムニバス形式の謎解きといった具合である。
謎解きが別個の問題として小分けされているため、問題ごとの解決すべき事柄は少ないが、この謎解きでは代わりに解決すべき事柄そのものを解決策と合わせてわかりにくくすることでねじれを作っている。
この塔には鍵と鍵穴のようなわかりやすい対応関係はない。何が鍵となり得るのか、その鍵を得るためには何をすればよさそうか、扉の代わりに抜けられそうな場所があるかどうかなど、情報を得て使いこなすための観察と推察が求められる。色や記号を合わせるいかにもな謎解きもあるがダミーの選択肢を多く残しているので、いたずらな総当たりはまず通用しない。
マヌケの経験上小分けにされた謎解きは単調なことが多く、この作品がそうとわかったときはゆえに気落ちしたものの、結果的に謎解きそのものへのマヌケの満足感は高かった。後半は一つの部屋に複数の空間が収められるパターンも出てきて、一口サイズと侮れない謎解きの歯応えはマヌケの頭を大いに悩ませてくれた。
しかしながら、この作品はパズルを裏で支えるシステムに二つ大きな難を抱えていて、その酷さたるや、クソゲーという印象を強烈に残したほどだった。
一つは移動のテンポの悪さである。
このパズルにおけるキャラクターの移動は移動先を指定して動かすオート操作によって行われるが、梯子や段差等は考慮されないので、道中でそういった物を経由する必要がある場合、経由地を指定し移動の完了を待ってから改めて移動先を指定しなければならない。
このように手間のかかる操作を、このパズルではÜriとLayhの二人分もこなさなければならず、その上彼らは足が遅い。おかげで移動のテンポは最悪である。
総当たりを封じるべくテンポを落としたという見方もできなくはないが、このテンポの悪さは答えをひらめいた時の達成感すらも移動中の苛立ちに上書きされかねないほどだったので、マヌケとしては支持しがたい。
そしてもう一つは、物や場所を指定するシステムの欠陥である。
移動と同様にスイッチ等の作用を起こせる物体を動かすにも特定のギミックを指定して操作するが、判定が軒並み小さく、操作がわずかにずれただけでも移動に化けたりする。
この欠点においてもまた、操作キャラクターが複数存在したことが拍車をかけた。このパズルはキャラクターを切り替えるための専用のボタンがあるが、それとは別にキャラクターを直接指定することでも切り替えることができる。だがこのおせっかいなシステムが邪魔をして、キャラクターの裏側にあるギミックを動かせないことがしばしばあった。ÜriとLayhはそれぞれできることが違うため、目的のギミックを動かすにはそれだけ手間がかかるのだからよりタチが悪い。ただの移動に化けて二人が重なってしまうと最悪である。
この欠点はただの操作性の悪さではなく、謎解きの正解にも関わっているため深刻である。このパズルにはアクションを起こせる場所を指し示す機能があるものの、常時点灯のオプションではなく一時的に指し示すだけのヒントなので、とても操作性の悪さを想定していたようには見えない。
せめて処理だけはまともであってほしいがバグもあり、しかも遭遇する頻度は決して低くないという有様である。
二人分の操作をするようなゲームでは一人の移動中にもう一人を動かそうというような発想は簡単に出てくるだろうに、大半のバグはこの同時操作に由来している。四季の部屋は特に明らかに再現性がありしかも簡単に引き起こされるというのに、この程度のデバッグすらも行われていない。
このような悲惨な環境下であるにもかかわらず、無駄に実績が多くてますます腹が立つ。中にはエンディングに関わるものもある始末である。
大半は自力でも発見可能だとは思うものの、全てがそうというわけではないのだから意地が悪い。やってられなくなったマヌケは早々に外部ヒントに頼ったが、“Master Chef” の解放条件はふざけているとしか思えない。
また、この作品はセールスポイントとして手描きのアニメーションを挙げていて、パズルよりも前面に押し出しているほどなのだが、これもまた大して響かなかった。
塔を彩るデザインや色使いは美しく、キャラクターの一挙手一投足からイベントシーンに至るまで全てが手描きのアニメーションで構成された世界は枚数を重ねただけあってよく動くものの、それだけだった。移動のテンポの酷さは前述の通りで、仮にそれがアニメーションに合わせた結果だとすれば、この特徴は蛇足ですらある。
謎解きの邪魔になった可能性を無視して、謎解きとは無関係のストーリーにだけ注目してみても、やはり魅力は感じられない。この物語は語り手と読み手の認識の擦り合わせをしないまま語りたい設定や見せたい場面ばかりが先行してしまうというよくある失態をやらかしてしまっているのだ。
主人公たちや塔にまつわるバックグラウンドが明かされるのは終盤であり、それまでは彼らが何者なのか、何のために塔を上っているのか、その詳細が語られることはない。何もわかっていないまま勝手に進む物語には呆然とする他なく、気持ちが追いつかないまま勇ましい顔をされたところで心に響くものなど何一つない。
しかもイベントシーンは無駄に長い。ストアでも言及されている通り合計20分間、平均2分のムービーは思い入れもなく眺めるには冗長で退屈である。エンディングですら4分弱なのに、中には7分近くかかるものもある。1周目はスキップができないという仕様も腹が立つ。
設定を一気に語ろうとせず、序盤から小出しにされていれば印象は変わっていただろう。マヌケがストーリーに興味を持ち出したのはMaster's Roomでの回想からで、彼らや塔との関わりを理解したのはエンディングに至ってようやくである。それまでは好奇心も持てないまま、早く終わらないかとずっと受動的に眺めていた。
この作品が最も表現したかったものが何であるにしろ、制作者視点で肥大化した理想がマイナスの側面としてあちこちで強く表れてしまっていたように思える。はたして制作者はプレイヤー視点で顧みることを忘れていなかっただろうか?
光るものはあるのに、ゲームというメディアを生かしきれずことごとく足を引っ張っているという悲惨なクソゲーだった。