m-log
パズルゲーム感想アーカイブ

独り錯り惑う道程 “Monument Valley”

問: 思考とは原罪か?それとも贖罪か?

等角投影の錯視により理屈の上では繋がらないはずの座標同士が繋がるねじれた空間を舞台に、主人公アイダを操作して幾何学模様を収めるべき場所へと返していくパズルアドベンチャー。
舞台の構造からパズルのルールに至るまで “Evo Explores” に酷似しているが、そちらはリリースされたのが2016年なのに対してこの作品は2014年なので、Evo Exploresがパクった……もとい、インスパイアされたというのが正しい。

操作はアイダの移動先を指定するためのタップと、ステージの構造を変化させたり回転させたりするパーツのスワイプ操作だけである。
ハンドルは可動エリアの上に乗っていると操作を受け付けなくなるが、○がくっついたスライドパーツは無条件に操作が可能である。
移動可能な範囲は滑らかな連続平面と階段や梯子で接続された場所だが、そこまでの経路が一続きであるならば物陰を通ってでも移動することができる。ただし、プレイヤーが指定できるのは現在見えているマスに限られるため、裏を返せばゴールまでのルートが整っていたとしても、その場所が見えていなければ移動させられないということでもある。

このパズルの問題は一つの長いステージをいくつかのセグメントに分割する方式で用意されている。そこでは一時的なゴールがどこであるかをわかりやすく指定してくれないので、行けそうな場所を片っ端から歩いてまわるしかない。
だがその選択肢は少ないため、一通り見てまわるうちに順路は勝手に見つかってしまう。頭の中で全ての選択肢を並べて、どの道をどの順で進むかどうかを考えなければならない状況はまずない。それはまるで一本道の上を歩かされるかのようでもあり、簡単で単調な遠回りの多さには辟易とした。

しかしながら、おまけモードにあたる “Ida's Dream” やDLC “Forgotten Shores” ではこれらの欠点が改善され、パズルとして歯応えのある問題になっている。
単純に道を繋げるだけではなく、移動のルールをパズルの問題として組み込んで目的の場所に到達するためにアイダの立つ面と視点を揃えさせたり、平面の繋がりをわかりにくくして空間認識能力を問うたり、ステージ全体を利用した大掛かりなだまし絵アセンブリを組ませる謎解きをさせる問題があったりする。やはり選択肢の少なさとオート移動の便利さによってすぐに解けてしまいはするのだが、パズルとしての問題の出し方のバリエーションの広さゆえに飽きることなく楽しむことができた。

ちなみに、Evo Exploresと比較するとステージに曲面が少ないように感じた。そのせいだろうか、だまし絵世界というイメージよりも、仕掛け絵本の世界のイメージが強い。
またこのパズルは繋がる道を探すというよりは、いかに自分の道を確保するかどうかが思考の中心となっていた。その違いが生まれた理由として、Evo Exploresでは一時的なゴールが明示されていたがこの作品にはそれがないこと、そしてこの作品には徘徊するカラス人間という道を塞ぐ存在がいたのが大きいだろう。自身を邪魔する存在を避け自分の通り道を確保しさえすれば、あとは勝手に道が繋がることが多かった。

手応えという点においては大したことのなかった作品だが、等角投影のパズルだからこそできる面白さを色々と表現してみせたのは見事だった。
ストーリーに関してはアイダの罪が具体的に何なのか、「私たち」とは一体誰のことなのか、エンディングで起こったことは何だったのかなど色々と不明な点が多く何がなんだかさっぱりだったが、それでも仕掛け絵本にふさわしい幻想的な風景は歩いていて気持ちのいいものだった。だまし絵パズルの源流として多大な影響を残したというのも納得である。

関連項目

Monument Valleyシリーズ作品

記事内で言及した別作品の感想アーカイブ