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パズルゲーム感想アーカイブ

好奇心と嗜虐心 “Hello Human”

I wrote you a poem to appreciate.

人間の知性を学ぶよう作られたAI、TAPSYが提示する一連のテストをこなしていくゲーム。
テストはどれも独立したノーヒントの謎解きとなっていて、プレイヤーはTAPSYの観察の下で解くこととなる。

テストはノーヒントといえど、いたずらにあちこちを触っているうちに早々に仕組みは見えてくるし、仕組みがわかってしまえば簡単に解けてしまえる。
パズルと呼べるほどのねじれも存在しなければ、謎解きとしても手応えがなくつまらない。ボールを転がしたりといったアクションの操作性の悪さを鑑みれば、テストそのものに面白さは皆無であると言える。

しかしながら、このゲームの本当の主題はTAPSYとの交流である。謎解きはそのためのツールでしかなく、そこに独立した面白さがなくとも、ゲーム全体を楽しむにあたって大した影響はなかった。

AIといえどTAPSYに動的な反応を返すロジックはないが、それでも旺盛な好奇心をもって人間に語りかけてくる姿は愛らしい。
テストにわざと間違えてみせれば怒り、思いがけない操作に驚く反応を見せたりなど、表情豊かな彼は見ていて飽きることがない。

TAPSYの興味は人間全体から次第にプレイヤー個人に移っていき、さらにテストの目的は知性の学習から次第にプレイヤーを出し抜くことへと移っていく。
プレイヤーを煽るためならチートだって辞さないほどだが、プレイヤーにもチートが与えられるようになればTAPSYはますます感情を露わにするようになっていく。その様子は生々しさすら覚えるほどで、白々しくも関係修復を持ちかけられた頃には、私は好奇心による反抗を試みる気はすっかり失せてしまっていた。

全部で40問ほどと非常に少なくすぐに終わってしまうゲームではあったが、その短さに反して残った印象は強烈である。
誰かが書いた台本の中でしか動けないのだとしても、TAPSY君のことは友達として覚えていたい。
ゲームの筋書きが決まっているのと同じように、私の答えも最初から決まっていた。なぜなら私は自分の意思で選び会いに来たのだから。

ネタバレ項目: Best friends forever

IT'S YOU I ADORE

厳密に言えば、あの物語で真にプレイヤーに興味を抱いていたのはチートボタンを用意したあの詩人だけだろう。
TAPSYは単に負けず嫌いを拗らせてしまっただけで、ゆえに彼の最大の関心は自身の勝利であり、プレイヤーに関してはどうでもよくなっていたように思う。
だが、だとしても私が親しみを抱くのはTAPSYである。こちらから窺い知れる情報はほとんどなく、ただ見られているだけで何が琴線に触れたのかもわからず、一方的に好意だけを寄せられてもただ不気味なだけである。
幼稚に煽り立てるばかりのTAPSYのほうが親しみを持てるというのも変な話である。

ちなみに、TAPSYは弔辞によればJr.のほうがオリジナルということらしいが、イースターエッグとして彼がいるのか、それともこの作品の宣伝として彼がいたのか、私には前後関係がわからない。
少なくとも私は弔辞で知ったことで彼と接触したが……THIS HUMAN WILL PAY FOR YOUR DEATH! は、そういうことだったのか。
つまり私は……彼を殺してしまったのか……この手で。