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パズルゲーム感想アーカイブ

プレッシャー相手のロジカルバトル “Flipzyx”

時に追われ、対処に追われ……追われ続けた絶望の果て、遂に打ち上がる四つ星花火の美しさは格別である。

Flipzyx Screenshot

公式のトレーラーが削除されていたため画像に差し替え。
導火線の火が花火玉の打ち上げポイントであるゴールまで辿り着けるよう、導火線パネルを動かしたり反転させたりして誘導するパズルである。
一つの火をただゴールまで導くだけなら単純だが、クリアするためには盤面上の全ての導火線および花火が使い切られた状態でなければならない。

このパズルはクリアに至るまでの動作や状態に応じた4段階の星による評価が存在する。クリアのための必須条件は上記の二つだけなので、必ずしも達成しなくてもいいルールがあるのがこのパズルの特徴であり、同時に難易度を跳ね上げる要因にもなっている。
その基準は「一時停止コマンドを使っていないかどうか」「導火線の火の色と打ち上げた花火の色が一致しているかどうか」「誘導を誤った結果消えてしまった火がないかどうか」の三つ。
高評価を狙わないのであれば、適宜時を止め考えながら解いたり、無駄に増えてしまった火を行き止まりで無理やり消火することで、自らを追いつめる存在を潰してのんびりと解くことができる。

ではいざ四つ星花火を上げようとすると、このパズルは途端に凶悪なゲームとなる。
火の色や進行方向といった基本的なパラメータを合わせなければいけないのは当然として、複数の火をまとめるためには距離を合わせなければいけない。
直線の長さを1とするとカーブの長さはπ/4なので、通過したパネルの数で単純計算することはできない。この厄介な誤差のせいで火の合流はそれ自体がパズルの枠組の一つになっている。
導火線パネルが消えていくという基本ルールは、パネルの移動先の選択肢とパラメータを揃える手段とでトレードオフなのである。

(Flipzyx: Level 2-9) 一つの炎と一色のパネル、そして一つのゴールとシンプルに見えるが、事態をややこしくする分岐パネルが一つ混ざっている
序盤の難問。
一つの火、一つのゴールに対して、分岐/合流が1セット用意されているのはなぜか?
対処する火が増えるのを嫌い分岐を避けていてはゴールは永劫に叶わない。

このシビアなルールの下、それをさらに時間制限付きで解かなければならないのが最高評価の難しさである。
うまく火を捌く手段を見つけたところで間に合わなければ意味がない。間に合うかどうかを確認するには時を止めずに動かすしかないが、複数の火の対処に追われながらどうして冷静に判断できようものか?
そのせいで、強いプレッシャーの下でやるアクションゲームのような感覚を覚えることとなった。

しかしながら、慣れてくると不思議とパズルに収束してくる。
そこに至るまでの過程に覚えゲーのような苦行の要素があることは間違いないが、時間制限内で確かに解けるルートを構築することに慣れると、自らを追い続けてきた存在がただの解決すべき事柄の一つに収まるのである。
マヌケは時間制限のあるパズルは苦手だしマルチタスクも苦手だが、それでもほとんどの問題で四つ星花火を上げることができた。
時間の猶予がほとんどないような、アクションに極端に偏った問題もあるものの、割合としてはおまけみたいなものである。

ちなみに、マヌケの力及ばず三つ星クリアで妥協してしまった問題が3問存在する。

(Flipzyx: Level 3-18) 4枚でU字を描くようなパネルのセットが4個対称に並んでいて、一見綺麗に解けそうな問題
(Flipzyx: Level 4-14) パネルをスライドする余白が全くないにもかかわらず、複数の経路が描かれたパネルが詰まっている問題
(Flipzyx: Level 8-13) 炎が3個の状態からスタートするが、合流用パネルがないにもかかわらずゴールが2個しかない問題

You can complete every level without losing any stars! と制作者は豪語しているものの、本当に自らの手で確認したうえで保証しているのだろうか?8-13とか右側の火をどうやって一つにまとめるんだ?配置か着火点を間違えているとしか思えないのだけど……。

四つ星クリアが怪しい問題の存在を差し置いても、瞬発的なマルチタスクへの対処という、パズルから少し外れた能力を要求する高難易度パズルということで人を選ぶ作品ではある。
しかしながら、時間制限がありながらも慣れてくると正しくパズルに回帰するという、純粋なパズルゲームではあまり類を見ないユニークな構造のパズルとして面白い作品だった。